<本所吉田町>
本所吉田町(昭和4(1929)年に墨田区石原四丁目に編入)は法恩寺橋の西の両側にありました。
本所吉田町の裏長屋は、夜鷹の巣窟として有名でした。
「江戸切絵図」
<本所吉田町の裏長屋>
「東京開化狂画名所 本所吉田町 夜たかのどんたく」(月岡芳年 都立図書館蔵)
どんたくとは休日を意味します。土曜日は半日が休みなので「半ドン」です。
夜たかたちの本所吉田町の裏長屋での休日の光景が描かれています。
鼻がもげて、鼻穴だけの女性もいます。
川柳「はな散る里は吉田町鮫ケ橋」
<隅田川を渡って>
「名所江戸百景 御厩河岸」(広重)
船上の二人は夜鷹で、横に控える男の肌色の顔色と異なり、真っ白な濃い化粧で表現されています。
男は妓夫(ぎゅう)(客引き、用心棒)で、牛、牛夫とも書き、牛太郎とも呼ばれました。
夜鷹は石原橋奥の本所吉田町の裏長屋に住み、隅田川を越えて商売をしていました。
隅田川の向岸に見えるのが「石原橋」(現存せず)です。現在の横網2丁目12番地の入堀に架かっていました。
「江戸名所百人美女 大川橋里俗吾妻はし」(豊国・国久)
夜鷹は、黒の着付けで白木綿の手拭いをかぷり、端を口にくわえ吹きさらしにする姿が定形でした。
夜鷹の横にいるのは妓夫(客引き、用心棒)です。妓夫は左手に「吉田」と書かれた傘をもっています。
夜鷹と妓夫は、本所吉田町から来て、隅田川を吾妻橋で渡り柳原に商売に行くのでしょう。
「月百姿 田毎ある中にもつらき辻君の かほさらしなや運の月かけ 一とせ」(月岡芳年)
柳原で人気だった夜鷹が「ひととせ」です。
黒の着付けで白木綿の手拭いをかぷり、端を口にくわえ、ゴザを抱える夜鷹の定型の姿です。
月に向かって顔をさらさないようにと訴え、さらせば運の尽きと掛けています。
川柳に「てうちんで 夜鷹をみるは むごい人」があります。
<柳原堤>
昼間は古着屋が軒を連ね賑わった柳原堤ですが、夜は夜鷹が営業する場所として有名でした。
「古着屋と 二十四文と 入れかわり」(川柳)
「江戸名所図会 柳原堤」
昼間の柳原堤です。古着屋が軒を連ねて、古着が吊るされています。
「東京開化狂画名所 柳原 生臭坊主の臆病」(月岡芳年 都立図書館蔵)
柳原堤での光景が描かれています。
「江戸の花:温故知新 柳原夜鷹の図」(博文舘 1890年)
柳原の夜鷹が描かれています。
「東京名所三十六戯撰 柳原元和泉はし」(昇齋一景 1872年)
神田川の和泉橋辺りの柳原での光景です。
女性が舟に乗ろうとして、たぶんこぼれていた汚物に滑って、お隣の汚穢舟に転げ落ちています。
転んでいる女性はゴザを持っているので、夜鷹でしょう。
左端の男性は臭くて鼻をつまんでいます。
右端の女性は着物の袖で顔の下をおおい、男性は扇子で顔の下をおおっています。
下肥は、長屋より武家屋敷のほうが高く買い取られ、神田川は汚穢舟が目立った東京の名所でしたか?
「江戸名所道化尽 七 新シ橋の大風」(歌川広景)
神田川の新シ橋(現在の美倉橋)辺りの柳原での光景です。
柳原堤と強風にあおられている柳が見えます。神田川の上流には、火の見櫓が見えます。
新シ橋の上では、吹き荒れる風に人々が翻弄されています。
一人は空高く傘を飛ばされ、一人は笠を飛ばされています。
女性はマリリン・モンロー状態で、紙(浅草紙ですかね)を飛ばされています。
飛ばされている紙は、柳原という場所を考えると御簾紙で女性は夜鷹に思えます。
手がふさがっている男性は布を顔面に飛ばされ前が見えません。
夜そば売りは「夜鷹そば」と呼ばれました。
夜鷹がよく食べたから、そばの値段が夜鷹の代金と同じだったから、夜鷹と同じく夜になると現れて商売したからなど諸説あります。
夜鷹蕎麦よりも上等な風鈴蕎麦が登場しますが、夜鷹そばも真似て風鈴をつけ出し、両者の区別はなくなり風鈴そばという名称も消えていきました。
風鈴だけはそのまま使われ、夜そば売りのトレードマークとなりました。
「江戸年中風俗之絵」(橋本養邦)
「夜そば売り」
提灯を脇に置いて、客がそばをすすっています。
「今世斗計十二時 寅ノ刻」(国貞)
寅ノ刻とあるので、深夜3時から5時です。
夜鷹が描かれており、こま絵には夜そば売りが描かれています。
屋台に風鈴が2つぶら下げられています。
「鐘淵劇場故」(国貞 都立図書館蔵)
役者絵で描かれた夜そば売りです。
掛行燈には「二八 そは うんどん」の文字が入っています。
船で商売する私娼を「船饅頭」と呼びました。
表向きは「饅頭」を売っていたからだといわれています。
船饅頭は川岸で客に声をかけ、客を船に乗せて水上へ船を出し、一定の時間で戻ります。
行徳河岸〜永久橋、鉄砲洲の川岸に多かったようです。
「東京開化狂画名所 鉄砲洲船饅頭舟玉の開扉 」(月岡芳年 都立図書館蔵)
碇泊している船から船饅頭が小舟に飛び降りてきています。
船に乗り込んで仕事を終えてきたのか、船に乗り込んで客引きをしてきたのか、どちらですかね。
「盲文画話 舟まんぢう」
「世諺口紺屋雛形」(曲亭馬琴)
「間合俗物譬問答」
「絵本阿房袋」